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最高裁判所第三小法廷 昭和28年(オ)1249号 判決

主文

原判決を破棄する。

本件を大阪高等裁判所に差戻す。

理由

上告代理人小田成就の上告理由第一点及び第三点について。

原判決は、本件選挙当時の公職選挙法四八条、同施行令三九条の解釈として、投票管理者は、代理投票の申請があつた場合においては、その都度投票立会人の意見を聞いた上、代理投票の補助者を選任しなければならないものと解し、本件選挙当日第二投票所において、島久司、橋詰幾江の両名をあらかじめ代理投票の補助者として選任しておき、当日の代理投票全部を右の両名に補助させたことは違法であり、従つて本件選挙は無効であると判示している。しかし論旨にもいうとおり、本件選挙当時の公職選挙法四八条、同施行令三九条の解釈として、あらかじめ選任した補助者に当日のすべての代理投票を補助させることを許さないものと解しなければならないという程の文理的根拠があるわけではない。原判決は「候補者又は選挙人と投票補助者との間に特殊な関連性があつて苟もその公正を疑わしめるような補助者を選ぶことは選挙の公明性より極力これを避けなければならない」という趣旨から、選挙法規を厳重に解釈すべきことを説き、本件の代理投票補助者選任を違法とする一つの理由としている。なるほど補助者が候補者と特殊の関係をもち、強くその当選を望み又は落選を欲するような場合には、代理投票を申請した選挙人の意思に反するような代理投票が行われるおそれがないとは限らないが、選挙人と補助者との間に特殊の関係があつたからとてそのために選挙人の真意に反する代理投票が行われるというようなことは殆んど考え得られない。従つて選挙人が誰れそれであるから補助者は誰れそれであつてはならないということはない筈である。そうだとすれば代理投票の申請ある毎にその都度補助者を選任しなくとも、あらかじめ選任しておいた補助者に当日のすべての代理投票を補助させることにしたところで、そのために特に不公正が行われるという虞れはないわけである。況してこの補助者は、投票立会人の意見を開いて選任されるものであり、且つ一旦補助者が選任された後においても、若しそれを不適当とする事情が生じた場合には投票立会人からその変更を申出る途もあるにおいておや。更らにまた補助者は二人あつてその中の一人が選挙人の指示する候補者の氏名を記載し、他の一人がこれに立会うのであるから補助者の一括選任ということのために不公正を生ずる虞れは、なおさらなくなるわけである。

原判決はまたその理論を裏つける根拠として公職選挙法施行令四一条の規定を援用している。しかし同条は、身体の故障又は文盲であることを理由として代理投票を申請した選挙人にその事由がないと認められる場合に代理投票の拒否を決定し得ること、その選挙人がこの拒否の決定に不服である場合及び選挙人に代理投票をさせることについて投票立会人から異議がある場合に、仮に投票をさせなければならないことを規定したものである。この場合代理投票を拒否すべきか否かについては、各選挙人毎に異なる事情を考慮して決定しなければならないこと勿論であるが、そのことは必ずしもその際行われる仮の代理投票の補助者もその事情に応じて別々に選任されなければならないという理由とはならない。いずれにしてもこの稀有の例外たる仮投票に関する制度を論拠として通常の代理投票の方法を律しようとするのは妥当でないこと論旨の主張するとおりである。

次に本件の投票管理者が三尾候補のために選挙運動に従事していた橋詰幾江を代理投票の補助者として選任したことは、深慮を欠くものであつて妥当とは言えないが、しかし投票管理者が同女を選任するにあたつて投票立会人から異議もなく決定されたこと、また補助は同女のみが単独にしたのではなく相役島久司と共に互に立会の下に行われたものであること等を考え合わせてみれば、同女の選任を以て選挙の規定に違反したものと断ずべき程度には至らないものと考えられる。この点においても原判決は失当である。

以上述べたところによつて明かなように、原判決が本件選挙は右の二つの点において選挙の規定に違反するものであるとしたことは、法令の解釈を誤つたものと言わなければならない。それ故論旨は結局理由があり、原判決は破棄を免れない。

そして原判決は、他の争点についての判断を省略して原告の本訴請求を認容したものであるから、民訴四〇七条一項に基づき本件を原裁判所に差戻すべきものと認め、主文のとおり判決する。

この判決は裁判官全員一致の意見によるものである。

(裁判長裁判官 井上登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎)

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